■ LEDがもたらしたもの
照明を劇的に低コストにしてくれたLED。将来、そのLEDの歴史に次のような一文を見つけたとしたらどう感じるでしょうか?
「LEDの発明は、オイルランプ復活のきっかけともなった。」
いまは少々大げさな表現に感じるかもしれません。
しかし、室内灯だけでなく、街灯やレジャーでもつぎつぎと照明がLEDに変わっていく中で、私たちは心のどこかでかすかな違和感をいつも感じています。それはつまり、私たちが改めて「明かり」について考えているということでもあります。
■ 光の波長と、光の束
LEDの明るさの冷たさは何が原因でしょうか。もちろんLEDの波長は種類があり、その組み合わせによって一見暖かい明かりを作ることもできます。
しかしLEDの人工的な冷たさ(あるいは鋭さ)は依然として感じてしまいます。
その原因は波長の幅の狭さと、光の束の狭さです。
下のグラフは、太陽光(赤)、灯油の明かり(黒)、そしてLED(緑)の波長を重ねたものです。
横軸の内、左側が紫外線側、右側が赤外線側。中央のLEDの部分が可視光です。
Normalized distribution of radiation intensities for the Sun (red) and for a kerosene flame (black) by Planck’s Law; photopic spectral sensitivity of the eye (green) shown for comparison of overlap.(※1)
灯油の明かり(黒)がもっとも幅が広く、特に赤外線側が大きいため、暖かく感じます。
次に幅が広いのが太陽(赤)ですが、紫外線領域が大きくなっています。日に焼けてしまうのはこのためです。
LEDはエネルギーのほとんどが可視光になっているために高効率です。しかし自然界では考えられないほどに波長の幅が狭く、それが私たちに違和感をもたらします。
さらにLEDは光源から発せられる光の束(光束)も狭く、ひときわまぶしいため、それもストレスとなってしまいます。
■ 明かりの役割
さらにもう一つ付け加えたい光の性質が「ゆらぎ」です。
ほぼ単一波長のLEDに対して、灯油の光は下のグラフのように幅広い波長に渡って小刻みに”揺れて”います。
灯油火炎光の発光スペクトル(※2)
オイルランプの光といえば炎がゆらゆら揺れているのが特徴ですが、炎だけでなく波長も揺れているのです。(1/fゆらぎ)
その独特な広がりとゆらぎが、光と熱だけでなく「やすらぎ」を感じる原因です。
思い起こせば、炎を手にした原始時代の私たちは、明るさと共に「安全なリビング」を手に入れました。「明かり」とは、「照明」と「やすらぎ」の二つの役割がありました。
LEDはその極めて人工的でシャープな光によって私たちの財布に安寧をもたらしただけでなく、これまで都市生活から追いやられようとしていたオイルランプにも再び光をあててくれたのだと思います。
照明という役割だけに特化したLEDが、「やすらぎ」というもう一つの明かりの役割について思い出すきっかけを与えてくれました。
■ 安全なやすらぎ
そんなやすらぎの灯をぜひリビングに、と思いますが、暖炉はなかなか、コスト的にも、安全面でも難しい。
やはり小さなランプが便利です。
ランプには主に4つのタイプがあります。
「小型のテーブルランプ」、「吊るすハンギングランタン」、「中型の灯油(ケロシン)ランタン」、そして高輝度の「マントル式ガソリンランタン」です。
あらためて一つずつ見ていきたいと思います。
「テーブルランプ」
灯油かアルコールで楽しみます。
明るさも小さいですが、食後のティータイムに贅沢なやすらぎを与えてくれます。
「ハンギングランタン」
主にキャンドル用ですが、灯油ランタンの屋外用もあります。
和風の石灯篭も暖炉と同じくなかなか手が出ませんが、
ハンギングランタンなら手ごろに楽しめます。
「ケロシンランタン」
値段も手ごろで耐久性も抜群。明るさもちょうどよいです。
ハーブ精油の入った虫よけケロシンも夏の夜のやすらぎです。
「ガソリンランタン」
こちらはかなり実用派ですが、ホワイトガソリンのマントル式ランタン。
50年以上前の発明品なのに、夜を昼のように明るくしてくれます。
しかもLEDランタンにはない、独特の色、熱、音。
同じ年月を重ねたバースイヤーランタンも人気です。
尾池(工学博士)
参考文献
※1:Mike Machala, “Kerosene Lamps vs. Solar Lanterns”, Submitted as coursework for PH240, Stanford University, Fall 2011
※2:消防研究所報告, 115, 9-2013, ISSN0426-2700