■ 未来を担うバイオプラスチック
日本では「麻(アサ)」と聞けば、つい麻薬と結びつけてしまいます。たしかにアサはマリファナの原料。しかしその先入観で見ると、とても面白い表があります。
産業用アサの生産面積(単位:ヘクタール、2016年)
産業用のアサの生産面積です。日本だけが極端に小さい数字になっています。欧米や中国は大麻に寛容なのでしょうか?もちろんちがいます。これは、日本が魅力的な何かで出遅れていることを示しているのです。
アサはいまや「麻薬と関係がない」ほどに開発が進み、「未来を担うバイオプラスチック。グリーン燃料。大豆に匹敵する栄養食。」と呼ばれています。「夏服に欠かせない素材」はもちろんそうした代名詞の筆頭です。
この現状を理解するのは意外と簡単です。アサには二種類あり、カンナビスには薬効成分(THC)が含まれ、ヘンプにはほとんど含まれていません。
薬用(カンナビス) THC濃度2%以上
食用・繊維用(ヘンプ) THC濃度0.2%以下
カンナビスとヘンプは栽培方法も極端に違います。カンナビスは室内栽培で、ヘンプは大平原で育てます。ヘンプの平原を見て、違法では?と心配するのは世界で日本人だけかもしれません。
この二つの品種の関係はサルとヒトの関係に似ています。DNAはほとんど一緒ですが、人間にとっては大きくちがうものになります。
日本ではこの二つの品種をどちらも「アサ」と呼んでいるのです。しかも法律上、研究もままなりません。
■ ヘンプに未来を託す
ヘンプはすごい。
だから日本でも古来より愛されてきました。実は日本在来のアサも薬効成分は低く1%前後で、栽培方法も大平原で育てる繊維型です。それなのになぜ規制対象になってしまったのでしょうか?理由には諸説ありますが、それは大きな問題ではありません。
問題は、ヘンプ研究に乗り遅れている、という事実だけです。
ヘンプの繊維は紫外線に強い。濡れても乾燥が速い。「夏涼しく」が基本の日本で必須の繊維です。バイオプラスチックとして建設資材にもなると期待されています。
栄養価は大豆に匹敵し、しかも成長が速く、110日で高さ2.5メートルに達する1年草です。環境順応性も高く、世界中ほとんどの地域で栽培できます。
しかも低公害のディーゼル油にもなります。生育の際には多量の二酸化炭素を固定し、バイオマス原料植物として各国で研究・実用化が始まっています。
研究が活発でないのは、先進国で日本だけなのです。
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■ 想いの布
未来を変えるかもしれないヘンプ。用途開発が盛んな一方で、アサの本質はむしろそこではなく、私たちの生活に根付く愛着にあると考える人たちもいます。
日本で赤ちゃんに麻の葉模様の産着を着せるのは、麻のようにすくすく育ってほしいという願いが込められています。
麻の中の蓬(よもぎ)ということわざは、まっすぐ育つ麻の中では蓬も曲がらないことを、私たちが人から受ける影響に例えています。
アサ繊維は広い意味ではヘンプの他に、イラクサ科の苧麻(チョマ)、アマ科の亜麻なども含まれ、これらに麻の字があてられたのは、屋根の下で茎をこすり繊維を取り出すことからきています。これを「茎繊維文化」と呼ぶ人たちもいます。
日本では不思議な諸事情からアサ繊維の入手が難しくなり、神社のしめ縄もいまや輸入麻やビニールで作られています。アサ繊維の復権を目指して2014年には北海道ヘンプ協会が設立されました。2015年には伊勢市に伊勢麻振興協会が発足し、三重県の神事用の麻を国産で賄いたいと県に麻栽培を申請し、今年(2018年)に栽培許可の方向性が示されました。
様々な企画展を手掛けるアートディレクターの大地千登勢氏は、与那国・八重山に古くから伝わる苧麻繊維文化を現代に残す活動を続けています。大地氏によると苧麻繊維文化は単なる繊維産業ではなく、「想い」を織る文化だといいます。
女性たちは海に出る男性を想い、日々、手織りで布を織っていく。もはやそれは産業用の織物ではなく、「想いの布」を織る文化。テサージと呼ばれ、海に出る男性のお守りになりました。(大地氏)
苧麻によるアサ繊維の服が産業化されるまでにはまだ時間がかかりますが、近日、商品をアップする予定です。
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尾池(工学博士)